サービス業や、同じ第一次産業である農業よりもはるかにGDPが低く、人材の高齢化が進んでいる林業。
しかし一方で、木の良さを見直し、国産材の自給率を上げようという国をあげての動きや、地方での暮らしが注目され始めたことにより、地方に移り住み、林業を生業とする若手が現れるなど、伸びしろの大きい「宝の隠された産業」とも言われています。
林業は、単に木材を生産するだけの産業ではありません。地域経済を活性化させることはもちろん、林業を持続させることは水と空気と環境の多様性を守り、国土全体のわたしたちの暮らしを守ることにもつながります。
「間伐材」から「主伐材」へのシフト
「間伐材」を使うことは環境にいいことであるという考え方は、一般にも広く普及するようになりました。苗木の成長を促すために、密集しないよう間引いて森に光を入れる「間伐」は、木々が木材として使える樹齢(約半世紀)になるまで数年おきに繰り返します。その時に間引かれた木材が間伐材です。
ただし、戦後にたくさん植えられた木々は既に伐り頃に到達しており、「間伐」から「主伐」という一帯の伐採を行う時代へとシフトしています。人が植えた木は計画的に伐って、余すことなく使い、伐った後には新たな苗を植える。その循環を促すことが森のCO2吸収を促進し、産業を維持させることにつながります。
MORINOKUTSU 対談企画「森と共に生きていく」|PATRICK
また、同様に「端材」を利用することは環境にいいアクションの象徴となりつつあります。しかし、端材は製品化された木材よりも確保や選別に手間がかかり人員が必要となること、1つ1つ異なるサイズの材料を製品に加工するには効率が下がることから、金額だけでいうと逆にコストアップとなる場合もあります。
イメージだけで端材を求めることは、製品が正当な対価で購入されなくなることにもつながり、産業力を弱らせかねません。真にサステナビリティを求めるのであれば、産地の実情やコストまで理解した上で選択する意思が必要です。
大きく育ちすぎた木々の行き先
阿蘇小国の木々は樹齢70年クラスの木が多く、早期の伐採が望まれます。かつては、大切に育てられた大きな木(大径木)は価値ある材として高値で取引されましたが、日本らしい建築様式が減った現在はその価値観が失われつつあります。さらに、木の直径が製材工場の刃物のサイズを超えてしまうと板や柱に加工できなくなることから、大径木ほど買い手がつかない状況も増えています。
また、大径木の伐採は特に高度な技術が必要で、伐採作業を行うフォレストワーカーの中でも行える作業者が限られます。同時に、山から運び出すコストも膨らみます。適齢期に伐採して利用する、持続可能なビジネスとしての林業を日本中が模索している状況です。
経営としての難しさ
小国町では、山から伐り出した丸太の売上のうち、7~8割は必要経費といわれます。感染症の流行や世界情勢などの影響による木材価格の高騰(第3次ウッドショック)もみられますが一時的なもので、必要経費としての燃料代や運賃等も高騰するため、決して利益が潤沢とはいえません。50年育てた木1本の利益が数千円にしかならないようでは、林業への意欲は失われます。
また、木を伐った後の森には苗木を植え、新たな森を育てる必要があります。はげ山のままでは豪雨時の土砂流出や生態系への影響も懸念されるからです。しかし、山をまるごと売ってもその利益から、苗木を植えて次の森を育成する費用を捻出できず、赤字を補填するため補助金に頼るのが実情です。
山主の高齢化と関心の薄れ
熱心に林業に携わってきた山主の高齢化が進んでいます。山林に足を運ばなくなることで隣の所有者との境界が曖昧になってきていることや、離れて暮らす子世代や孫世代が山林の場所を把握できていないことは珍しくなく、スムーズな森づくりを阻む一因となります。
山林を伐採する際に、誤って他人の山の木を伐採した場合は犯罪となるため、所有山林の境界を確定するための「地籍調査」を行う必要があります。山林を売買するにも、地籍調査を行った上での土地の登記が必須です。山主の皆さんが元気なうちに境界を確認できるよう、地籍調査課の職員が共に1歩1歩、山の境を歩いて調査しています。
現場を担う人材不足
ウッドショックにより国産材の価格が少し上がり、山主の経営意欲が上がってきていますが、現場の人員不足により伐採の依頼に応えきれていません。早くて3ヶ月先、場合によっては半年以上先の着手になることもあります。
また、伐採作業を行うフォレストワーカーは60代以上の年代が多く、10年後には多くの人材が引退することが予想されます。木を使うにも植えるにも、まずは伐採する担い手が必須です。その育成が急務とされる中、近年は都市部からの移住者が担い手として増えています。
木材も選んで使うという「投票」を
長らくの間、安価で量産しやすい海外の木材に頼ってきた日本の建築やものづくり。世界情勢の影響や、海外の産業構造の変化、日本の貿易競争力の低下などに伴い木材輸入が停滞する今、日本の木がようやく必要とされた時には現場の産業力が既に落ちており、需要に生産が追いつかなくなっています。
建築はもちろん、農業や漁業、観光やサービス業も、森から生まれるあらゆる資源を基盤としていることが再認識され始めました。安さや速さだけで選ぶ消費ではなく、地域の木を正当な対価で使うことが、産業や資源を守ることにつながります。次世代にこの環境を残すため、阿蘇小国の山主たちは林業をあきらめず、地道な挑戦を続けています。
担い手の育成と林業作業者のサポート
中でも急務とされるフォレストワーカー育成のため、小国町森林組合では未経験者を含む人材を職員として雇用し、給与や制度面での職員の生活の安定を図りながら、安心してスキルを身に着けてもらえる体制を整えています。
また、小国エリアには、森林組合や林業事業体に属さず、個々人で伐採や植栽などの仕事を請ける林業作業者が多くいます。彼らが事故や怪我に見舞われた時の労災保険整備のため、平成17年に小国林業一人親方組合を設立。小国町森林組合が事務局となり、専門的な講師を招いた安全講習会(勉強会)を定期開催する他、現場装備の購買やメンテナンスなど、地域で林業に携わる方々が安心して働ける環境づくりのサポートに努めています。
未来の森を描く「森林経営計画」の策定推進
森林所有者は5年単位で森の経営プランを策定することが推奨されています。内容は、育った木をいつ頃伐って売りに出し、どんな木を植樹して新たな森づくりを進めるかといった山のお世話のことや、地域全体で見た時に経済林や水源林などどういう機能を持たせるのがいいかといった、森を最適化するデザインなどです。このプランを【森林経営計画】と呼び、これに基づき適切な林業が行われることで、地域一帯の森林環境を健全に保ち、林業の効率化を行います。
計画の策定率は、全国平均28.3%(2015年)に対し、熊本県小国町では長年に渡り70%を超える高い水準を保っています。小国町森林組合では、森林整備課に所属する職員は【森林施業プランナー】の資格を全員が取得し、森林所有者により最適なプランを積極的に提案、サポートします。こうして多くの方に森林組合員となって頂くことで、地域全体でのより良い健全な森づくりを進めています。
サステナブルな森づくりの証【SGEC認証】の取得
小国町森林組合は、適正な森林管理と環境に配慮した木材の証明である【SGEC】と【SGEC-CoC】の認証を全国で2番目に取得しています。SGECは、森づくりのISO認証とも呼ばれる第三者認証で、厳しい審査と更新手続きを経て得られるものです。
小国町の山林の多くが認証された森林であるため、小国町の林業は環境に配慮された持続可能なシステムの元、行われているといえます。また、山で伐られた木材がお客様の手元に届くまでの流通経路がクリアで、公正なルートであることを追跡可能。食べ物のトレーサビリティのように、産地や生産者を選べる信用を提供しています。
木材の価値をより高めるための取組
これまでの木材流通において産地は下請けとしての位置づけが強く、木材価格は産地が決めるのではなく、多くは市場や情勢に左右されて決まります。そんな中でも少しでも価値を上げられるよう、環境負荷の少ない特殊な木材乾燥技術の開発やトレーサビリティの徹底、木材性能のデータ化など当たり前の安心を整備し、良いものを正当な対価でお選び頂けるよう努めています。
また、地域の多くの山林の状況を把握できるからこそ、小国町森林組合では公共建築に適した材料や特殊な木材を森から直接ピックアップして出荷するなど、より価値を高めた産直販売も可能。地域資源の活用やSDGsの達成をテーマとした、企業活動や教育と連携した取り組みも推進しています。